滋賀県は十一面観音の宝庫である。湖北の十一面観音が地元民が集落で守り続けて来たケースもあってとくに有名であるが、湖南にも実に多くの十一面観音が居られる。大津(旧志賀郡)、栗太郡、蒲生郡、甲賀郡に特に多く、かつてはこの地区の十一面観音様だけを廻る湖南観音霊場巡りもあった。今日でも続けておられる方も多い。自分はそこまで熱心ではないが、甲賀在住中の20年間には本当に多くの観音様にお目に掛った。大半が平安時代から鎌倉時代の木造で、残念ながら作者が不明のため国宝になれず、重文止まりとなっているが、実力的には他県なら国宝になるレベルの観音様がたくさんおられる。
2月28日には仲間にお世話いただいて、竜王町の幾軒かのお寺をお訪ねし、二躰の十一面観音様と阿弥陀様やお地蔵さまに御目に掛って来た。何れもそれほど高名なお寺ではなくどちらかというと地元でっひっそりと信仰されているという風情であったが、それぞれに地元との一体感というかしっとり感が感じられた。
この地元との一体感は甲賀の十一面観音でも感じていたもので、平安時代に比叡山の地元で浸透していった天台宗の普及と天台寺院による造仏活動が湖南一帯に植え付けて行ったもののような気がする。この宗教的環境が後の甲賀武士や甲賀忍者といわれる人達の淵源の一つとなったのではなかろうか。